最高裁判所第二小法廷 昭和52年(あ)1515号 決定 1977年12月26日
国籍
韓国
住居
東京都港区南青山五丁目一二番二二号
会社役員
林木祥
大正七年六月二四日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五二年七月二七日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人小林勝男の上告趣意のうち、憲法三〇条違反をいう点は、原審において主張、判断されていない事項についての主張であり、その余の点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲 裁判官 栗本一夫)
○昭和五二年(あ)第一五一五号
被告人 林木祥
弁護人小林勝男の上告趣意(昭和五二年一〇月一二日付)
原判決には、次の違法があり破棄是正されるべきものである。
第一点 憲法及び所得税法令に関する違反
原判決は一審判決をそのまま是認し被告人に対し昭和四三年度につき課税所得金額を七九、一〇六、〇〇〇円、四四年度分の課税所得金一〇〇、六一五、〇〇〇円であるとし、それぞれ判示の過少申告をなした旨の事実を認定し刑を宣告している。
然し国民の納税義務は、法律に定めるところによって行なわれるべきことは云うまでもなく、その義務の発生内容となる課税対象の所得の算定認定も租税法の定めによらなければならない。
本来、一定の所得を生むためにはその事業のために必要な経費が必然的に伴うことが前提要素であるから課税所得を算定するにあたり、この前提要素経費を控除すべきことが法律の建前である。蓋し租税法定主義(憲法三〇条)の所以である。
然るに本件につき原判決は、被告人の事業所得発生のための支出のうち<1>芸能費、<2>公租公課、<3>交際費、<4>従業員給料等を経費として認容せず各期の課税所得に含ましめて認定し(後記の通り)、被告人の所得過少申告罪を判示しているのであるから右は前記憲法の要請に違反する。
第二点 判決に影響を及ぼす重大な事実誤認
一、原判決は、実際課税所得金額につき(1)昭和四三年度分を七九、一〇六、〇〇〇円、(2)四四年度分一〇〇、六一五、〇〇〇円と認定しているのであるが、(1)につき一四、二五〇、〇〇〇円の過大認定をし、(2)につき一五、二四〇、〇〇〇円の過大認定をし、結局被告人の税逋脱額を誤って認定している。
これらの誤りは、各期の支出について経費性を否認した国税査察官の判断にひきまわされ、正しい経費認定、控除算定をしなかったことに原因がある。
二、即ち、各期の事業上経費として原判決が認容するもののほか次のものが当然に経費として認められるべきものである。
(一) 昭和四三年度
1 芸能費
トッパライ費用 一、二〇〇万円
踊子(松井分) 三一万円
〃 (井上分) 四万円
2 公租公課 一二〇万円
3 交際費
正峰会 一二万円
社長 一五万円
(二) 昭和四四年度
1 芸能費
トッパライ費用 一、二〇〇万円
踊子(井上分) 八万円
2 公租公課 一二〇万円
3 給料(林東基) 六〇万円
4 交際費
正峰会 一二万円
社長 九〇万円
三、右について、原審第一審の認定方法の誤りについては追って補充する。
第三点 審理不尽の違法
原審は、本件の最も大きい争点である支出内容、その支出の理由、事情、効果等、事業経費としての性格を十分に検討吟味すべく弁護人から証拠の申出をしたのに冷たく却下一蹴し被告人の得心のいく審理がなされず、その審理不尽が前記事実誤認の原因となっている。
(追って本書面につき、補充申出書を以って補促いたします)。
以上